昨年より議会で問題提起されている飯塚オートレース場のメインスタンド建て替えの件について、市民の間でも意見が出てきていますので、より多くの方々に知っていただきたく情報を整理したいと思います。当サイト内にも江口徹議員にインタビューした記事や関連記事はございます。本記事では、なぜ飯塚オートレース場のメインスタンド建て替えが問題視されているのか改めて解説します。もし本件を初めて知った方も、考えるきっかけとなっていただければ幸いです。
[重要] ポイントは飯塚オート自体ではなく、お金の使い方
先に本記事について抑えるべきポイントを記します。
問題視されているのは「メインスタンドの建て替えに36億円を投じるのは適切か否か」です。36億円という巨額の税金を投じることに目が行きがちになりますが、勘違いしてはならないポイントは「飯塚オートの存続を否定するものではなく、合理的な投資かどうか」という点です。
オートレース自体に興味がない、ギャンブルする場所に税金投入する意味がわからない、飯塚オートが盛り上がるなら歓迎すべきだ、等々様々な意見があると思います。現在注目されている件をより理解できるよう、まずは飯塚オートの歴史から理解を進めていきましょう。
飯塚オートの歴史と経営
まず、オートレースというのはモータースポーツの一つで、排気量600ccの二輪車で競う公営競技です。公営競技というのは国(公的機関)が認めた賭博であり、合法のプロフェッショナルスポーツで、一般的にはギャンブルと言われます。公営競技にはオートレースの他に、競馬、競輪、競艇があります。
飯塚オート公式ページ(画像クリックでサイトに遷移します)
オートレース場は全国に5つあり、そのうちの一つが飯塚オートレース場です。1957年に開設され、旧産炭地の発展に大きく貢献してきました。オートレース場自体の目的は自治体の財政困窮を回復させること、つまりオートレース場で得られた収益の一部を飯塚市に還元し、市を豊かにすることにあります。具体的には小型自動車等機械工業の改良・振興・合理化、体育事業・その他公益事業の振興、地方財政の健全化が目的です。
1957年というと、二瀬町、幸袋町、鎮西村の隣接3町村がまだ飯塚市ではなかった時代(1963年4月1日に飯塚市に合併)であり、炭鉱の閉山が進んでいる時代=炭鉱業の衰退期でした。炭鉱は1976年の貝島炭礦(現:若宮市)を以て筑豊全ての炭鉱が閉山しています。
他自治体では赤字の公営ギャンブル場を廃止する動きもありましたが、飯塚オートは炭鉱業の衰退に伴う財政難から市の発展に多大に貢献した経緯から、飯塚市はオートレース場を支える姿勢をとっています。
飯塚オートは長きに渡り市を支えていた功労者であったのは事実です。一方で、オートレースの売上に翳りが生じて2013年度末に累積赤字が14億円に達してしまい、飯塚市は飯塚オートレース場の運営を2015年度から日本トーター株式会社へ民間委託することを決定しました。
民間委託後、単年度黒字を含めて徐々に赤字幅を縮小する傾向にあり、赤字解消への目処は立ちつつあるのが現状です。そのため経営改善努力は認められるものの、累積は赤字であることに変わりなく、2021年までの20年以上は市にお金を入れることができていない状態にあります。
一方で、場内の売上減少と反して場外チケット(オートレース場に行かなくてもインターネット等を利用し、車券を購入)の売上は上昇傾向にあり、デジタル社会の進展とともに売上構成の内訳にも変化が生じてきました。
2016年から2020年までの売上内訳を以下の表にまとめます。こちらの表についての詳細は別記事をご参照ください。
この表をどう見ればよいのかについて説明します。
まず上表の車券売上額内数に注目ください。飯塚オート、電話・ネット投票、場外売上額内訳と大きく3つに売上分類できます。()内に書かれている%の数値が総売上額に占める売上の割合です。
2016年には12.9%あった飯塚オート場内の売上は2020年に3.2%となっています。2020年はコロナ禍という理由も影響したと思いますが、年々減少傾向にあり9割以上は場外で売りが立っています。
この結果が何を意味しているのかというと、
レース自体は飯塚オートで開催されているけれど、その売上のほとんどは場外
ということです。
そしてこのタイミングで建物の経年劣化に伴い、メインスタンドの建て替えに36億円を投じるか否かについて問題提起されています。下記事は2021年9月に掲載された議会だよりです。
建て替え後に顧客獲得を目指して積極的な投資を行うのが市の方針ということです。多額の税金を投入するのですから、観客獲得を見込める判断材料を提示して欲しいところです。
改めてポイントをおさらいします。
飯塚オートの目的は地方財政に対する貢献
飯塚オートは市の発展に大きく貢献。現在は赤字解消に邁進中で黒字化が見えている
売上は場外が9割以上(=飯塚オートの売上は減少傾向、ネットは増加傾向)
建替(36億円)の目的は老朽化対策と来場観客の獲得
耐震補強であれば1.4億円
表の実データを参考にすると、建替後にレース場の利益が倍になったとしても、売上全体に占める割合は1割程度にしかならないという計算になります。36億円を投じたとして、コロナ禍前の2019年で回収に106年と1世紀以上かかると試算されています。耐震補強の場合は2019年ベースで4年程度で回収可能です。
なぜ飯塚オートのメインスタンド建替が話題となっているのか、何となく掴めてきたでしょうか。デジタル化が加速し、世の中はSociety5.0を目指す社会へ着々と進んでいます。飯塚オートの売上は大半が場外です。現地に足を運ぶレース場の売り上げが低下する傾向にあり、反してネットの売り上げは増加傾向にあります。
飯塚オートの目的が市への財政貢献であるならば、今回36億円を投じてメインスタンドを建て直すことは果たして合理的と考えられるでしょうか。皆様はどう考えますか?
飯塚オートレース場MAPと今後考えられる補修箇所
飯塚オートレース場のMAPを見てみましょう。
公式サイトの施設MAP情報
Googleマップの航空地図情報
赤丸がついている場所がメインスタンドで、建て替え対象となる部分です。スタンドは公式サイトの施設MAP情報を見るとわかるように、メインスタンド(第一スタンド)の他に隣に位置する第二スタンドもあります。
施設自体の老朽化が進んでいるのはメインスタンドの他に第二スタンド、Googleマップ上の上側に位置する選手宿舎です。同様に経年劣化が進んでいる第二スタンド、選手宿舎の建て替えも話として出てくることが予想されます。
飯塚オートはメインスタンドの件だけで収束するとは考えにくく、今後も運営を継続するにあたって長きにわたり対策を講じることになるでしょう。
オートレースの中期基本方針はデジタル化
オートレースは経済産業省が指導・監督の下、多くの団体が連携して実施されています。
公益財団法人JKAの公式HPより
小型自動車競走運営協議会では、2021年から2025年の中期基本方針(クリックで見れます)を公開しており、収益構造の変化が飯塚オートだけではなく、オートレース市場で共通していること、デジタル化に向けた施策を多数考えていることが分かります。
中期基本方針資料より抜粋(p20)
決済システムのデジタル化のほか、映像コンテンツを強化するために、車載カメラから臨場感ある映像を観客に届ける工夫が計画に盛り込まれています。オートレース市場全体がどういった方向に向かっているのか、そしてオートレース場の現場でどのような投資が必要となってくるのか具体的に見えてくるでしょう。
飯塚オートレース場はスタンド建て替えの件を抱えていますが、同時にオートレース市場の取り組み課題をどう乗り越えていくのか、それに対する新規投資が必要か否かも検討しなければならないのかもしれません。
たらればは付き物ではありますが、将来を見据え、その時その地点で最良と考えられる意思決定が市には求められます。
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